ドキュメント鑑賞☆自然信仰を取り戻せ!

テレビでドキュメントを見るのが好き!
1回見ただけでは忘れてしまいそうなので、ここにメモします。
地球環境を改善し、自然に感謝する心を皆で共有してゆきたいです。
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神の数式1 この世は何からできているのか

1本の鉛筆を、尖った方を下にして机にたててみよう。
もし完璧に垂直にたてることができれば、バランスがとれて倒れないようにできるかもしれない。

どんなに真っ直ぐたてても鉛筆は必ず倒れてしまう。
なんどやっても、どれだけ完璧に垂直にしたとしても・・・
そんなの当り前じゃないかと思うかもしれない。
しかし鉛筆が倒れる何でもない現象が、ある科学的大発見の大本になっている。
スイスにあるヨーロッパ合同原子核研究機構CERN、2012年7月、ここで1つの素粒子が発見された。
ヒッグス粒子、人類が探し求めてきた最後の素粒子の発見として最先端科学になじみがない人まで湧いた、世紀の大発見と言われた。

鉛筆が倒れる現象の重要さに、世界で初めて気づいたのは、2008年ノーベル賞物理学者・南部陽一郎92歳、物理学の最終目標と言われるある研究を長年続けてきた1人。
この世にもし創造主がいるとしたら、一体どんな設計図に基づいて宇宙を作り上げたのか。
アインシュタイン以来、物理学者達は、いわば神の設計図を発見し、それを数学の言葉=数式で表したいと血眼になってきた。
神の数式の探求だ。
これまでも物理学者たちは、いろいろな現象を数式で表すことに、一様の成功は収めてきた。
例えばオーロラが輝く理由は、こんな数式で表される↓

大気の動きならこんな数式↓
dv/dt=ρK-grand p+1/3η grand(div ∨)+η▽2v
電気が係る現象については、この数式がある程度うまくいくことが分かっている。
けれども、もしあらゆる現象を寸分の狂いもなく、しかもたった1つの数式で説明することができたなら、それこそが創造主の設計図、つまり神の数式と言えるのではないか。
物理学者はその数式を求める野望に取りつかれているのだ。
すべての物理学者は、いわゆる万物の理論を見つけることを夢見ている。
自然界のありとあらゆるもの、素粒子の世界から大宇宙までを説明できる数式だ。
この世は何からできているのか、神の数式を探し求めるための血のにじむような道のり・・・
それはいわば神の名にふさわしい完璧な美しい数式を求めようとする、苦難の連続だった。
大発見で打ち破った困難、その一方で完璧な美しさを追い求めるあまり、この世が数式上は存在してはならないという矛盾した結論に苦悩する年月も続く。
そんな時鉛筆のアイディアを引っ提げて登場したのが南部陽一郎、完璧に垂直にたてた鉛筆でも、必ず倒れる運命にあるように、完璧な美しさは、現実世界では崩れる運命にあることを示し、神の数式への扉を開くことになる。
 
月この世は何からできているのか〜天才たちの100年の苦闘〜
これからお話するのは、物理学の中でも素粒子物理学と呼ばれる世界の人たちのお話。
彼らはこの世のすべての出来事が数式で書けるに違いないと疑わないちょっと変わった人たち。
頭の中は、とにかく数式でいつもいっぱい。
私たちとは考え方がすっかり異なる物理学者たちは、どんな方法で万物の理論に肉薄しようとしてきたのか?
実は、物理学者たちはこの100年間で神の数式にかなり近づいたという。
ヒッグス粒子を発見したCERNの裏庭に1つの数式が刻まれている。
物理学者たちが神の数式に最も近いと考える最先端の数式。
この式を少し詳しく書くと、こんな感じ↓

1行目はこの世界を作り上げている物質の最小単位、つまり素粒子がどんな性質を持っているのかを表す数式なのだという。
その素粒子は4種類↓

これらの素粒子はどこにあるのか。
ミクロの世界に存在している。
まず原子の中をくるくる回っている電子。(e)
そして原子の中心の原子核を作り上げているのがクォークと名付けられた2種類の素粒子。(u d)
最後に原子核から時折飛び出してくることがある気まぐれな素粒子がニュートリノ。
これらの素粒子を原子の中にまとめたり、動かしているものの正体は?
それを表しているのがこの3行↓

電子を原子核に引き寄せているのが電磁気力、2種類のクォークをまとめ原子核を作り上げているのが、強い核力と呼ばれる力。
ニュートリノを原子核から飛び出させていた原因は弱い核力と呼ばれる力。
物理学者たちは先ほどの4つの素粒子と、この3つの力が完全に理解できれば、オーロラや台風だけでなく、この世のすべてが説明できると信じているのだ。
そして最後の2行は、ヒッグス粒子の存在を示した部分。
物理学者はこの神の数式に最も近い数式にどうやってたどりついたのか・・・

まずは1行目物質の最小単位である素粒子を説明する数式、そこには数式の美しさにとことんこだわった1人の男の物語があった。
神の数式探しの最初の舞台となったのは、1920年代後半のケンブリッジ大学だった。
ここに1人の若き物理学者、ポール・ディラックが暮らしていた。
ケンブリッジの中でも最も権威のあるルーカス教授職に30歳の若さで就くことになる天才。
このルーカス教授職に就いた人物には、あのニュートンや、車椅子の天子ホーキング博士がいる。
万物を説明する数式を探したい。
ディラックの興味はまず4種類の素粒子のうちで唯一発見されていた電子に向かった。
すでに電子はマイナスの電気を持っていることはわかっていた。
さらにその性質を表す数式も知られていた。
シュレディンガー方程式、この数式を使えば、電子のエネルギーなど、ほぼ正しく求めることが可能だった。

ところがその電子にシュレディンガー方程式では説明のつかない性質があることがわかってきた。
いわば地球のように自転をし、さらに磁石のような性質を持っているという事実だった。
なぜ自然は自転する磁石のような不思議な性質を電子に与えたのか、ディラックはその性質を説明できる新しい数式を作り出したいと考えた。
当時の物理学者の姿は、こんな風に例えられる。

この時持っていた最高の知識を武器に、素粒子の正しい数式を求めようとしたものの、まるで歯が立たなかったのだ。
新しい数式を作ろうというディラックのアプローチは、非常に変わっていた。
それまでは実験や観測結果をそのまま数式に置き換えればよいと考えられていた。
一方ディラックは、自分の美的感覚に従うことにした。

ディラックの座右の銘「物理法則は数学的に美しくなければならない。」
美の感覚には個人差がある・・・が物理学者にとっての美しさは、対称性と呼ばれ、その基準は非常にはっきりしている。
例えばこの2つの図形、物理学者なら迷わず右を美しいと考える。

物理学者はXとY座標軸を使って美を見極めている。
座標軸を回転させたとしても円の数式の形は変化しない。
このことがすごい事だというのだ。

この数式には回転対称性があるといい、物理学者は、これを美しいと感じるのだ。
さらに物理学者はこんな縞模様も大好き、それはこの模様を表す数式が座標軸を平行にずらしてみたとしてもやっぱり変化しないから。
こんな時物理学者は並進対称性という美しさがあるという。

基準になる座標軸、つまり見る人の視点を変えても数式が変わらないことが美しいのだ。
ちなみに先ほどの円の数式が座標軸が平行に移動すると、形がこんな風に大きく変化してしまう。
 
だから円の数式は回転対称性は持っているが、並進対称性は持っていない。
対称性とは、見る人の視点が変わっても、もともとの形や性質が変わらないということ。
正方形は視点を90度回転しても全く同じに見える。
物理の数式も、見る人の視点によって変化しない。
ディラックが大切にしていたもう1つの美しさがローレンツ対称性。
アインシュタインの相対性理論関係があり、いわば時間と空間は本質的には同じものだという意味。
その上でディラックは、こんな風に考えた。
もし神が作った宇宙の設計図があるとするならば、それは完璧な美しさ、つまり全ての対称性を持ったものに違いない。
シュレディンガー方程式をよく見ればわかるように、時間を表すtが1つ、空間を表すxは2つ含まれている。

だから時間と空間は同じものだというローレンツ対称性は持っていなかった。
そのため視点が変わると数式は形が大きく崩れてしまう。
見る立場が変わると変化してしまう数式は神の数式としてふさわしくない。
ディラックはすべての対称性を持った美しい数式の構築を目指した。
3か月間書斎にこもりっきりになったディラック、外部との接触を一切断ち切る。
有頂天な気持ちと恐怖が交互に現れ、何度もパニックに陥る日々、しかし美しさにとことんこだわった苦労は報われる。
1928年に発表された論文『電子の量子論』に登場したのはディラック方程式。
 tとxが1つずつ、あのローレンツ対称性をも満たすシンプルな数式だった。

その威力は驚くべきものだった。
電子の自転や磁石といった謎めいた性質をすべて正確に説明することができたのだ。
さらにその後見つかったニュートリノやクォークなど、物質の最小単位である全ての素粒子の性質がディラック方程式で説明できることまで分かった。
全ての対称性を兼ね備えることで、素粒子の性質を完璧に説明する数式が解明されたのだ。
物理学者たちが神の数式を刻み込んだ石碑の1行目には、ディラック方程式がコンパクトにまとめられ、刻み込まれた。
この世は何からできているのか、それを1つの数式で解き明かそうとする物理学者たちの戦い、次に立ちはだかったのは、素粒子同士を結び付けたり動かしたりしている3つの力の数式がまだわかっていないという問題だった。
最初のターゲットは3つの力の中で最も身近な電磁気力だった。
電磁気力は原子核に電子を引き寄せ、さらには原子同士をまとめあげ、様々な物質を生み出す源となっている力。

1930年代、アメリカ西海岸に電磁気力の数式に挑む1人の物理学者がいた。
ロバート・オッペンハイマー、その後原爆の父と呼ばれるようになる人物。
あらゆる研究分野でその名がとどろいていた。
オッペンハイマー達当時の物理学者の考え方は、こんな風に例えられる。
かつてディラックはローレンツ対称性という美しさを武器に付け加えることで、素粒子の性質を表す数式に導かれた。
同じように何か新たな美しさ、つまり対称性を取り込めば、電磁気力を表す数式にたどりつけるのではないかと考えた。
オッペンハイマーたちが目を付けたのは、ゲージ対称性と呼ばれる4つ目の対称性だった。
ゲージ対称性は難しい概念だが、ごく簡単に言えば回転対称性に似ているという。
電磁気の大きさを測る分度器が空間にあって、その角度を変えたとしても数式の形は変化しない、という美しさを意味している。
 物理学者たちはゲージ対称性を含む4つの美しさを持った数式の構築を模索した。
すると再び1つの数式が姿を現した。
いわばディラック方程式の発展版、4つの対称性を持った電磁気力の性質を説明する数式の誕生だった。

数式から導き出された世界は興味深いものだった。
電子は光子と呼ばれる光の粒を放ち、それが電子と原子核を結び付けている。
電磁気力を伝える実態もまた、粒のような存在だという。
新たな対称性から導き出された電磁気力の数式は、この世の成り立ちを見事に説明するだろう・・・
ところが意外な事実が待っていた。
色々な計算を行ってみると、無限大という全く意味の分からない数値がでてきた。
皆、数式が間違っているかもしれないと考えた。

オッペンハイマーが発表した論文『場と物質の相互作用の理論について』、実際に数式を使ってみると電子のエネルギーは無限大と数値になってしまい、それはあらゆる物質が存在してはならないということを意味した。
なぜ無限大というわけのわからない数値ばかりが出てくるのか、オッペンハイマーは仲間の物理学者たちと手分けをして計算を何度もやり直したが、無限大の問題は全く解消できなかった。
この頃時代の歯車は大きく狂い始める。

1939年9月ドイツがポーランドへ侵攻、第2次世界対戦が始まった。
さらにアメリカの物理学者フェルミがウランの核分裂連鎖反応に成功、多くの物理学者が原爆の開発へと駆り立てられることになった。
アメリカが誇る天才オッペンハイマーはマンハッタン計画の責任者に任命された。
ニューメキシコ州のロスアラモスに集まる物理学者たち、神の数式へ近づくための研究は、無限大の問題を解消できないまま姿を消した。
何十万人もの命を奪った原爆、ジャーナリストたちはオッペンハイマーに、原爆の父という称号を与えた。
その後電磁気力の研究の第一線に戻ることはなかった。

純粋な理論物理学の世界で生きる道はなかったのか、戦後自戒の念に苦しめられたオッペンハイマーに、思わぬ場所から手紙が届いたのは、1948年のことだった。
差出人は朝永振一郎、名前も知らない日本の物理学者だった。
自分は戦争中に無限大の問題を解決する方法を見つけていた。
しかしそれを欧米に発表する機会を奪われていたという内容だった。
自分が開発した原発の被害国からの思わぬ知らせにオッペンハイマーは心を揺さぶられる。
英語に翻訳された朝永の論文『量子場理論での無限大の反作用について』は、オッペンハイマーの手助けで、世界で最も権威のあるフィジカルデビュー誌に掲載された。

特殊な計算方法を開発し、無限大の困難を打ち破った論文に、世界は度肝を抜かれる。
あるアメリカの物理学者はこう語った。
フリーマンダイソン著『Disturbing the Uni
verse』「戦争の廃墟と困難のさなかにある日本で、国際的に完全に孤立状態にありながら朝永はどうにかして理論物理研究集団を維持し、ある意味では世界のどこよりも進んだ研究を行っていた。
我々には深淵からの声のように響いた。」
ちょうど同じころ、朝永と全く同等の理論をアメリカの若き物理学者リチャード・ファインマンとジュリアン・シュウィンガーが発表、戦後の自由な空気の中、無限大の問題は一気に解決した。
朝永達がまとめあげた数式による計算結果は、実験事実と驚くべき一致を見せた。
例えば電子が持つ磁石の強さもその1つ。
対称性の美だけから導かれた計算結果はこんな数値、それは実験で測定された磁石の強さと、小数点以下10桁までぴたりと一致した。

対称性(Gauge Symmetry)という美に従えば正しい数式を構築できる。
ディラックから始まった信念は、電磁気力の数式をも解明した。
物理学者たちがたどりついた神の数式の2行目、驚異的に正確な数式が歴史に刻まれることになった。

見事に解明された電磁気力の数式、しかし続く1950年代、神の数式の構築を目指す物理学者たちは、思いもよらぬ事態に翻弄されることになる。
その悲劇の主役となったのは、中国出身の風雲児チェンニン・ヤンだった。
物質を構成する素粒子をまとめたり動かしたりしている3つの力、すでに電子を原子核に引き寄せる電磁気力の数式は解明された。
ヤンが挑んだのは、原子核を作るクオーク同士を結び付けている強い核力。
そしてニュートリノを原子核から飛び出させる弱い核力だった。
ヤンがこうした力の数式を目指す手掛かりにしたのも美しさ、つまり対称性をさらに追及すれば、新たな力の数式も構築できるはずだと考えた。
ヤンは原子核の中にゲージ対称性と似た美しさが存在しないか調べ始めた。
そしてたどりついたのが物理学者にとっても超難解だと言われる非可換ゲージ対称性と呼ばれるものだった。
1954年ヤンが同僚のミルスと共に発表した研究論文『荷電スピンの保存とゲージ不変性』、新たなゲージ対称性を数式に持たせることで、素粒子の間の新たな力の数式にたどりつくことができた。
ヤンの理論を推し進め、それを現在の物理学の言葉で書き表すと、こんな数式になることが分かっている。

これで物理学者たちが神の数式に最も近いと考えるものが、ヒッグス粒子の部分を除き全部そろった。
ついにこの世のすべての力と素粒子を表す数式が見つかった。
多くの物理学者が期待に胸を躍らせた。
ところがそこには全く予想外の落とし穴があった。
それは強い核力や弱い核力を伝える粒子の重さがどう計算しても全て0になってしまうという矛盾だった。
重さが0なのは光子だけで、ほかの粒子はすべて重さを持つはずだった。
数式は素晴らしく美しい。
しかし力の粒子の重さは0になってしまうという点で現実とかけ離れている。
完璧な美しさを追い求めてきた物理学者の目の前に重さ0という大きな矛盾が姿を現した。
その後まもなくヤンの理論について議論しようという物理学者はほとんどいなくなった。
ヤン自身も議論の完成を諦める。
さらに物理学者たちを驚かせる出来事が続く。
対称性のより深い研究から、力を伝える粒子だけでなく、物質の最小単位であるすべての素粒子の重さまでもが数式上は0になってしまうという驚くべきことが指摘された。
つまり世の中のすべてに重さがないという現実とは矛盾した結論が数式から導き出される事態になったのだ。
もし本当にすべての素粒子に重さがないとしたら大変なことが起きる。
計算上、原子からは電子が飛び出し、物質はすべてバラバラになってしまうのだ。
全ての素粒子の重さが0だったとしたら、あらゆるものが飛び散る。
全てが光の速さで飛び出すのだ。
安定なものはなくなり、人も犬も猫も全てのものがなくなる。
あらゆるものが光の速さで動き、原子を構成するものがなくなってしまうからだ。
対称性という美しさに導かれ神の数式に近づいていったはずの物理学者たち、そのすぐ足元には、重さの謎という深い落とし穴があったのだ。
全ての謎がとかれるまでには、ヒッグス粒子の発見を待たねばならなかった。
1960年代シカゴにそれまでとは全く異なるタイプの物理学者が登場する。
日本生まれの南部陽一郎、人々は彼をこう形容した。
南部には未来が見えている・・・
この異質の天才が、美しさに導かれるとなぜか重さが0になるという大きな矛盾を解決することになる。
1960年代初め、南部が最も興味を持っていたのが、いわばこの現象。
そう、倒れてしまう鉛筆の問題。
単に鉛筆が倒れる何でもない現象だと思うかもしれないが、この現象が重さの矛盾を解くヒントになると南部は気づいた。
ここに鉛筆をたてるという設計図があるとする。
まっすぐに立てなさいというのだから、この設計図は回転対称性を実現するように描かれている。

そして設計図通り実際に鉛筆をたててみるとどうなるか。
現実は設計図通りの回転対称性を持った状態にはならない。
設計図には対称性があるのに、実際に起きる現実には対称性はない。
その後ノーベル賞に輝く「自発的対称性の破れ」と呼ばれる現象だ。
南部はこの「自発的対称性の破れ」が自然界の設計図でも起きうるとひらめいたのだ。
南部陽一郎が初めて示したのは、自然界の設計図に対称性があったとしても、我々が観測する物理現象には、その対称性がなくてもよいということ。
数学的に言えば自然現象を記述する数式に対称性があっても、その数式から導き出される現実には対称性がなくてもよい。
1961年に南部が発表した強い核力に関する研究論文『超伝導の類推による素粒子の動的模型』の内容を現在の物理学の言葉で言えばこうなる。

これは強い核力を表す数式、つまり強い核力の設計図。
少し詳しく書くとこんな感じ↓

強い核力を感じるクォークの姿が見えている。
この設計図は一種のゲージ対称性に沿うように描かれていて、その結果クォークの重さは0でなければならない。
しかし回転対称性を持つ鉛筆の設計図から回転対称性がない現実が生れたように、クォークの重さが0だとする設計図から、クオーークに重さがあるという現実が生れてくることを南部は見抜いた。
南部が解決したことをわかりやすくまとめるとこうなる。
完璧な美しさを追い求めてきた結果、重さ0という矛盾にぶち当たった物理学者たち、しかし南部は完璧な美しさは崩れる運命にあることを倒れる鉛筆を例に示し、その結果この世界に重さが生れてくることを証明したのだ。
倒れる鉛筆という身近な存在から生まれた自発的対称性の破れは、誰もが予想しなかった大発見だった。
さて強い核力からクオーークの重さが自動的に生まれることはわかった。
しかし強い核力を感じない電子やニュートリノ、そして弱い核力を伝える粒子などの重さが数式上はどうしても0になるという問題が残っていた。
この問題にヒッグス粒子という新手のアイディアで挑むことになるのがスティーブン・ワインバーグだった。
ワインバーグはクォーク以外の素粒子にも重さを持たせるため、南部が提唱した自発的対称性の破れを応用できないか悩み続けていた。
そしてついにそれまでの物理学者が決して踏み出さなかった、いわば禁断の領域へと足を踏み入れる。
それはこの世には存在しない都合のよい粒子を理論に持ち込むことだった。
ワインバーグ「私の理論では、ある種の新しい場というか、力というか、そいういうものを持ち込んだ。
それがどんな時でも何もない真空をびっしりと埋め尽くし、しかもそれが宇宙全体に広がっているという考え。
これが自発的に対称性を破るのだ。」
当時ワインバーグが参考にした研究論文『ゲージ粒子の質量と対称性の破れ』(ヒッグス1964年)によると、ある都合のよい素粒子ヒッグス粒子を理論に持ち込めば、数式の美しい対称性は保ったまま素粒子の重さを持たせることができると書かれていた。
その都合のよい粒子は、最初は空間にほとんど存在しないにも関わらず、その後勝手に空間を埋め尽くすような粒子だという。
これは最初は完璧な美しさを保っていた世界が、その後勝手にその美しさを失うという南部の考え方を応用したものだった。
さて、ワインバーグによると、このヒッグス粒子に邪魔されることで電子などが行く手をはばまれ、動きにくくなる。
その動きにくさこそが重さの正体だというのだ。
1967年に登場したワインバーグの論文『軽粒子の一つの模型』、ワインバーグはヒッグス粒子のアイディアで電子や弱い核力の粒子にも重さを与えることに見事に成功した。
重さの謎に翻弄されてきた物理学者たちは、ヒッグス粒子の力を借りてついに神の数式にたどりつく道を見つけた。
ところが当時ワインバーグの理論の評判は決してよいものではなかった。
ヒッグス粒子があまりに都合がよすぎるという違和感を一部の物理学者が拭い去れなかった。

車椅子の天才ホーキング博士は、ヒッグス粒子が存在しない方に金銭までかけた。
そして迎えた2010年、ワインバーグの理論の発表から40年以上の年月が流れていた。
ヒッグス粒子を見つけるため、人類史上最大のエネルギーを空間の一片に注ぎ込む実験装置がついに動き始めた。
CERNで2年以上にわたる実験を経て、ヒッグス粒子が叩き出されたと思われるシグナルが捉えられた。
ワインバーグの理論が立証されたと、世界中が称えた。
物理学者たちがたどりついた1つの数式、この世界を作る4種類の素粒子と3つの力を矛盾なく書き表した標準理論が完成した。
ヒッグス粒子を発見したCERNの片隅には、神の数式に最も近いとされるその数式が刻まれた。
それは物理学者たちの100年にわたる闘いの金字塔だったのだ。
神の数式の美しい対称性がこの世界にどのように反映されているのか、今物理学者たちはビッグバン以来の宇宙の歴史の中で、次のように解釈している。
宇宙は設計図である神の数式に従って誕生し、当初は設計図通りの完璧な対称性を保っていた。
そこではあらゆる素粒子に重さがなく、バラバラに飛び回っていた。
しかしヒッグス粒子などが引き起こす自発的対称性の破れによって素粒子に重さが生れた。
その結果素粒子がまとまり、原子が作られ、星々が輝き始め、銀河も形成されていった。
今、私たちの暮らしが存在することも、いわば神の数式に織り込まれていたというのだ。
ヒッグス粒子の発見によって、標準理論は今やこの世界に説明できない現象はないとまで言われるようになっている。
しかし標準理論を構築した物理学者たちは、理論の完成を喜ぶよりも、むしろ今、その先を目指し始めている。
標準理論の完成のためにヒッグス粒子の導入に踏み切ったスティーブン・ワインバーグ、万有引力、つまり重力を取り込んだ理論の構築が必要だと考えている。
素粒子の世界では、素粒子があまりに軽いため、それまで考えに入れる必要がなかった重力、今、物理学の最先端では、この重力をも取り入れなければ、本物の神の数式にはたどりつけないという考え方が支配的になっている。
およそ100年の歳月をかけて、この世の成り立ちを解明してきた物理学者たち、神の数式を探し求める闘いは、今もまだ終わっていない。
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