ドキュメント鑑賞☆自然信仰を取り戻せ!

テレビでドキュメントを見るのが好き!
1回見ただけでは忘れてしまいそうなので、ここにメモします。
地球環境を改善し、自然に感謝する心を皆で共有してゆきたいです。
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生命の誕生 How Life Began

およそ40億年前、巨大な湿った岩の上で、不思議な現象が発生する。
生命のないものから生命を持つ生物が生まれた。
それ以来地球上でそれぞれ進化を遂げてきた。
しかし驚くほど複雑な生命というものは、どのように誕生したのだろう。
地球の生命誕生を紐解くパズルはまだ完成していない。
いろいろなピースが足りておらず、そう簡単に完成させることはできない。
しかしその難しい難題に、人類は長い間取り組んできた。
パズルに足りないのは、地質学、天文学、科学のピース。
歴史と精神性に関するピースもかけている。
ここでの課題はそれぞれのピースを手に入れて組み合わせ、生命誕生の全貌を明らかにすること。
生命の起源における疑問は今にはじまったことではなく、人類はずっとこのパズルに取り組んでいる。
現代の世界を調査しデータを集めながら生命誕生の謎を解き、その進化と発達を解明し、数10億年前の地球の姿を見出してきた。
これらの知識があれば、私達の起源の物語をつなぎ合わせることができるだろう。
宗教や精神性は昔から人間の存在について考えてきた。
今日この自己への探求心というものが、ある種の物質から生命を誕生させる方法に関しての仮説をたてるまでに至っている。
問題は何が、いつ、どこでということ。
数10億年前に生命はいわゆる原始スープの中で生まれたのだろうか。

Jeffrey Bada(Scripps Institute)「生命を作り出す化学実験の準備としては、まず水を用意して適切な水温と水圧、紫外線、日光などの条件を整える。」
しかし極端な温度と圧力に支配された真っ暗な海底の場合はどうだろう。
Dave Deamer(UC Sant Cruz)「光から遠く離れた海底熱水噴出孔で誕生したという説もある。」
さらに帯電している鉱物の表面においては?
Robert Hazen(Carnegie Institution)「生命の起源を探るうえで注目すべき好物は粘土鉱物。
粘土には触媒特性や組織的特性など、単純なものが複雑に進化する際、まさに必要なものが備わっている。」
生命の起源に関して仮説をぶつけあう科学者達ははたして見解の一致点を見出すことができるのだろうか。
一方で生命に不可欠な要素に関しては意見が合致している。
誕生のしかたに関わらず、すべての生き物は元素と呼ばれる基本要素から構成されている。
Michael Allen(UC Los Angeles)「元素とはつまり原子。
周りにあるものは皆原子からできている。
例えば岩や地球もそう、今私達が吸っている酸素もその1つ。
そして生命の基本要素でもある。」

全てのものが基本的要素で構成されているという考えは古く、少なくとも紀元前4世紀のギリシャの哲学者アリストテレスの頃からあったもの。
アリストテレスの時代のギリシャ人はこう主張していた。
四元素、つまり土、空気、火、水に加えて第5元素なるものが生命の純粋な本質を含んでいると。
第5元素は不変かつ高潔なものであり、地球上の元素とは異なるとされていた。
Fr.Michael Holleran(Writer Discover Magazine)「第5元素とは天体を作っているもので、物理レベルで宇宙を構成するもう1つの元素。」
第5元素は生命の創造に関係しているとアリストテレスは信じていた。
今日元素が宇宙の万物を構成しているころは知られており、生物に不可欠なものを含め、ほぼすべての元素が数10億年前に消滅してゆく星々の残骸の中で形成されたものである。
100あまりある元素のうち生物はそのごく一部しか使っていない。
J.William Schoph(UC Los Angeles)「生物はC、H、O、Nで構成されている。
炭素、水素、酸素、窒素それに硫黄とリンが少しずつとあとは微量な元素だが、基本はC、H、O、N。」
これら元素は工場に運ばれる原材料さながら。
この場合は生命を生産する工場だが・・・

Life.Inc.「倉庫から原材料の元素、炭素、水素、酸素、窒素を持って行く。
もう調合してもよい状態になっている。」
Eric.Chaisson(Tufts University)「それらは地球に存在する陸地、海、大気、生物を構成する元素。」
Life.Inc.「調合室、容器の中で元素同士がくっついて独自の化合物が出来上がる。
その元素たちが二酸化炭素やメタンのような低分子を作り出し、それらはみな水に溶ける性質を持つ。
水はH2O、水素と酸素の化合物。
炭素は結合に優れている。
だいたい何とでもくっつき、炭素同士ということもある。
この特徴は生物にとって重要。」
Andrew Knoll(Harvard University)「炭素がそういう特徴を持っているため、炭素系の分子の多様性はそのほかの元素からなる分子の多様性をはるかにしのぐものになっている。
炭素は他の元素とくっついて少なくとも1000万種類の有機化合物を作り出す。」

Life.Inc.「ホースからでてくるのは水素と炭素の単純化合物。
つまりみず。
あれは炭素を含んでいないから有機物じゃないけど、ここではすごく重要で、元素と化合物全体にかけてやる。
次はこのダイヤル、これは水が冷たい凝固点と高い沸点を持っていることを表している。
ようするに液体でいられる温度の範囲が広いということ。
水は有機物の結合を早めたり強めたりするのを助けるもってこいの物質。
ぶつかり合って新しく長い分子を作ってゆく。」
Scott Sandford(NASA Ames Research Center)「十分な素材がそろっていれば原始地球においても溜池や有機物を作り出せただろう。
そしてその有機物が化学反応を起こし始める。」

元素や化合物などの原材料を生物へと変化させる化学プロセスはエネルギーの登場によって加速してゆく。
しかしエネルギーは無生物からどのように生物の構造を作り上げ、そのエネルギー源とは地球上の何なのだろうか?
生命誕生の謎を解くために、まずは生物の基本的な構成要素、元素と化合物を確認した。
しかしそれは生物の基礎の化学的な起源でしかない。
元素と化合物はどのようにして生命体の1つ、細胞へと進化したのか?
Michael Allen(UC Los Angeles)「生物の基本単位は細胞。
由香氏は単なる酵素の袋と考えられていたが、近年の構造生物学の研究により、その中には非常に精巧で複雑な細胞小器官という西郷の生命維持を助ける小さな構造体があることが分かった。」
Holleran「いわばブロックやエンジンルームのような役目をしている細胞というものについてとりわけ興味深いのは、まさに生物そのものの縮図といえる点。」
有機化合物を細胞へと変化させるプロセスはかなり複雑で、その全貌は明らかにされていない。
生命誕生の謎のパズルはすでにたくさんのピースがはめ込まれているが、まだ多いな穴が残っている。
工場ではエネルギーを使って何か始めるようだが・・・
Life.Inc.「化学反応を促進するのはエネルギー。
工場では特別な原子力ランプを使っている。
地球の主要なエネルギー源の太陽光の模倣。」
Chaisson「発達、複雑化、すべての相互作用で重要なのはエネルギー。
化学全般や自然界全体に普遍的なものがあるとしたら、それはその内外を流れるエネルギー。」

Life.Inc.「製造室、有機化合物がすごくおもしろい変化をしている。
もんただの原料じゃない。
ちょっとしたものになった。
ではできたものを仕訳しよう。
糖質に炭水化物、分子結合でエネルギーを蓄えている。
切断してやると、そのエネルギーで使い残しを処理できる。(代謝)
生物にとって不可欠な3つのプロセスの1つ。」
Marcelo Gleiiser(Author:The Prophet & The Astronomer)「何かを体内に取り込むとき、それに反応しそこからエネルギーを取り出すための化学的手段ともいうべき体内機能を持ち合わせていなければならない。
例えばパンを食べると気分が落ち着きエネルギーがわいてくる。
なぜそんなふうになるのか。
体の中で様々な反応が起こってそうさせているからだ。
この代謝能力というやつは非常に重用。」

Life.Inc.「ネバネバしたやつは脂質、脂肪のような分子で細胞壁のような膜の形成に使われる。
境界線は生物を特徴づけるもう1つのカギ。」
Deamer「生物は細胞からなっている。
現在私の知る生物はみな膜で仕切られ細胞を持っていて、その膜は生物を作り上げる分子を取り囲んでいる。」
Life.Inc.「あとはコピー能力があれば完璧。
生物には重要。
コピーで作りの材料は少しややこしいが、この容器にいっぱい入っているのはアミノ酸。
お互いくっつきあって鎖のように長い分子、タンパク質を作ってゆく。」
Chris Wills(UC San Diego)「タンパク質とはいわば化学的に連結したアミノ酸の鎖のこと。
連結が非常にしっかりしているため、タンパク質は丈夫な化合物といえる。
タンパク質は糖質、リン酸、アデニン、ルアニン、チトシン、チミンから構成されている物質DNAによって合成される生物を生み出し、複製するための設計図。」
Hazen「生物を発生するもの、一連の化学的ステップによるものと捉えると、複雑さが増してくる。
まずは基本的な生体分子を準備せねばならない。
タンパク質を作るアミノ酸、炭水化物を作る糖質、細胞膜やその他の境界線の生成を助ける脂質分子、これらを作り出したら、次は組織化を行わねばならない。」
Gleiser「必要なのはこの3つ、細胞膜、そして代謝を促す科学的装置、最後に自分の複製を作り出す遺伝装置、これらがそろって生物となる。」

Life.Inc.「ここは実際に生命を作っている場所。
細胞膜と代謝機能と自己複製子がそろってある種の化学進化を経ると誕生する。」
Chaisson「生物か否かの境界線はあいまい。
化学進化の違いばあるはずだが。」
Gleiser「何より重要な課題は生命のないものが正確にはどのようにして生命を獲得したのか、生命の起源を解き明かすこと。
繁殖し周りの環境と作用しあい、敵と戦う、それが生物の活動だが、これは無生物から生物への大きな変化であり、大きななぞでもある。」
生物は宇宙の法則と元素のような原料物質が共に作り出したものだと化学者達は信じているがそれはどう可能なのか。
1つの手掛かりとして宇宙ではよくみられる驚くべき現象、創発がある。
これはどのようにして宇宙の塵やゴミから星、太陽系、銀河系が誕生したのか、さらにはどのようにして元素や化合物のような無秩序な原料物質から高度に組織化された構造体、惑星や太陽、おそらく生命までも誕生しえたのかを説明する要素。
Chaisson「創発とは単純に組み合わせたパーツが要素以上の姿になること。
パーツの集合体以上のものが現れて何かしら面白いものになる。」
創発はほとんどどこでも見られる現象。
それぞれに飛んでいたたくさんの鳥達が突然一斉に方向を変え、示し合せていたかのような正確さで一団となるのもその1つ。

そして夏の終わりの浜辺では、太陽と潮の満ち引きの働きで等間隔に筋ができている。
浜辺に寄せるさざ波が定規もなしに描いたもの。
これも創発、今は砂
を伴って地域レベルで発生しているが、分子レベルでも起こること。
これが生命誕生のプロセスに違いない。
Gleiser「創発の最たる例は意識ではないか。
脳の働きを考えてみよう。
脳にはおよそ100兆ものシナプスがあり、その1つだけを調べても知能のことも意識のこともわからない。
だが脳のMRI撮影を行うと、シナプスの集まりが電気信号を伝達しあっているのが見える。
その活動によって意識が生まれる。
これが創発現象。」

創発は魔術的な現象でも意識的な力でもなく、むしろ自然の法則とエネルギーの流れの結果といえる。
この宇宙で生物ほど複雑な創発の例はないだろう。
微生物が少しずつ生物へと変化していった数10億年の間、生物はとにかくエネルギーの正確な調合を求め続けてきた。
Gleiser「こういった複雑なものの創発がこの世界において不可欠。
水素原子から星が誕生し、その星から周期表にある元素が作られ、さらに星は爆発し、惑星を形成、惑星はエネルギーの相互作用。
生命誕生は必然だろう。」
Chaisson「いずれにせよこのエネルギーの流れから生命が出現したのは必然的、または非常に自然なこと。
全容はまだ不明だが、わかっているのは銀河系から始まって星、惑星、そして生命体と急激に重要度が上がったこと。
ある程度複雑なことを成し遂げ、その結果生命の誕生が必然に至ったあるポイントがあるのだろう。」

Life.Inc.「ついにラインの終点に到着。
自己複製物質、代謝エネルギー、半透性の細胞膜・・・
完成!細胞は生きている。
これで出荷できる。」
しかし最初の生命が降り立ったのはとんでもない世界。
それでも生命体はここで生き延びてゆくしかない。
次の課題はまだ若い惑星上で自分をどう維持してゆくかということ。
地球に生命が誕生したのはおよそ38億年前、小惑星や隕石が地球への衝突を繰り返し、地球の表面のほとんどが溶解していた。
後期重爆撃期という時代の直後だと科学者達は推定している。
大気に酸素のない時代が長く続く。

Peter Ward(Biologist)「地球の記録となるものはほぼ皆無。
40億年前に誕生したころの岩も残っていない。」
しかし現存している最古の岩岩が生物の痕跡を明らかにしており、生命が誕生したのは地球がそれらを養うこともできた地質時代であったと示している。
私達にしてみれば原始地球は暗く有毒でひどい場所かもしれないが、単細胞生物にとっては快適な我が家であったようだ。
ある意味その原始地球はカリフォルニアにあるヨセミテ国立公園の東シエラに位置するモノ湖によく似ている。
Ronald Oremland(US.Geological Survey)「海水に比べて塩分濃度が2.5倍も高く、環境的に厳しいところだといえる。
塩分は一般的は塩化ナトリウムよりはむしろ炭酸ナトリウムなどで、水はアルカリ性であり、有毒。
アルカリ溶液に近く遠くの生物にとって危険。
ここの水はヒ素やホウ素も多く含んでいるにも関わらず、生物が存在し育っている。」
たいていの生物は寄せ付けない奇妙で有害な環境のモノ湖。
ここには魚もカエルも存在しないがある種の極端な環境を好む極限環境生物が育っている。
ミギワバエ、ブラインシュリンプ、特定の微生物たちも、この火山湖に順応している。
Oremland「湖を覗くと泡が出ている。
これらはメタン、エタン、ブタンの爆発性混合物。
微生物は生きられるところに住み着く。
例えば好色光合成細菌、およそ50℃という暖かい水の中で繁殖している。」
モノ湖の温水の中は若い惑星において生物がどのように栄養補給を行ったかを探る手掛かり。
原始地球は生物にとって居心地のよい場所であったものの、単細胞生物は数えきれないほどの世代に渡り数10億年もかけて自分達の環境を変化させ、現在のような姿に変化させた。

しかし脳も感覚ももたない小さな生命体が、どのように、そしてなぜそんなことをしたのだろうか。
現在地球上にいるほとんどの生物にとって、原始地球の酸素のない過酷な環境が意味するのは、文字通り死であろう。
単細胞生物より複雑な生物が生きるためには環境の変化が必要だが、ではいったいどうすればよいのか、驚くべきことにそれを成し遂げるのは単細胞生物たち。
しばらく時間はかかったが・・・
地球の初期の生物は脳も手も目も持たない単細胞生物というとても単純な形態で生きていた。
もしも姿を見られたとしても、それとは気づかないかもしれない。
最初にこの地球上に住み着いた生物は、海や大気を介して世界中に散らばったのかもしれない。
そしてその小さな細胞たちは何10億年にもわたり自らのコピーを作り続け、初期の種の一部は今日まで存続してきた。
現存する古代生命体の1つが単細胞生物で、オーストラリアの沖合にある岩のようなコロニーで生きている。
オーストラリア、シャーク湾、ストロマトライトと呼ばれる非常に珍しい構造物があちこちに原生している。
Martin van Kranendonk(Geological Survey,Western Australia)「ストロマトライトはその表面にいる微生物が非常に薄い層を作ることによって形成される。
くる年もくる年も時間をかけて薄い層を重ねてゆく。
この周りにあるストロマトライトは数千年かかって出来上がったもの、地球最古のものとなると35億年も前にさかのぼる。
それもここ西オーストラリアで発見された。
ストロマトライトはまったく別の世界で形成された岩石の中にも残っている。
酸素がなく、太陽光は弱く地球の自転速度が速くて1日が短かった世界。」
太陽光が弱く酸素もない若い地球では、手に入るもので命をつなぐしかない。
Kranendonk「初期のストロマトライトを形成した微生物が使ったのは化学エネルギー、栄養は化学物質から得て、それを炭素や老廃物に変換し細胞壁まで作っていた。」
その化学エネルギーはどこからきたのか、原始地球で単細胞生物が代謝を行うための栄養源は何だったのか。
もしかするとその答えは人間を寄せ付けないようなところに隠れていて、そしてその場所は生命誕生の手掛かりも与えてくれるかもしれない。

ニューメキシコ、スパイダーケイブ、Carlsbad Caverns National Parkから西の砂漠にある計り知れないほど長く続く幅45cmほどの穴、じめじめした暗い場所。
Hazel Barton(Northern Kentucky University)「太陽光がなく、真っ暗闇だが、ここの生物たちは他とは異なる化学的性質を持つ古都で順応している。
おそらく光合成が発達し、大気が酸素を含む前の太古の性質。
探しにきたのは岩を食べる微生物、岩そのものにエネルギーがある。
彼らはいろんなメカニズムを持ち、岩から直接エネルギーを抜き出したり、または溶かした岩から栄養を採ったりする。
そうすることで岩の表面の化学構造を変化させている。」
その微生物シアノバクテリアは小さすぎて目に見えないほどだが、彼らが後に残してゆく廃棄物は、食事をしていたという紛れもない証拠。
このバクテリアは生物の順応性における1つの興味深い例といえる。
そしてさらにシアノバクテリアが地球上で最初に誕生した生物と共通点があるとしたらどうだろう。
Barton「原始地球では生物が進化を行う時、光合成という手段も酸素もなかった。
そこに生息する生物は他の方法をとらねばならなかった。
そこで利用したのが金属。
数10億年前のその痕跡が残っている。
彼らが必要とし、手に入れられた金属とは、ちょうど原始地球に存在した鉄だった。」
生物には発見したエネルギーを活用してゆく能力があるが、岩や力のない太陽からは単細胞生物たちがどうにか生物を維持するだけのエネルギーしか与えられなかった。

生命誕生から35億年、そのおよそ8割を締める長い期間、地球上には単細胞生物しか存在しなかった。
その単細胞生物たち、例えばアメーバは見事な機能を備えている。
食事をし、外的の侵入を防ぎ再生する。
細胞膜、つまり脂質がアメーバのいわゆる内臓を維持する役割をし、体からは仮足と呼ばれる突起をのばす。
食胞という特殊な液胞の中、食物を分解し分子に変える酵素がある。
その他の液胞は細胞壁の排出入を行っている。
ミトコンドリア、アメーバが取り込んだ食物から化学エネルギーを生み出し、細胞の発育やライフサイクルにも影響する。
細胞核はDNAといった遺伝物質を含んでおり、アメーバはその体を分裂させて2つの娘細胞になる。
これはDNAを利用してオリジナルと同性質を持つコピーを2ち7つ作り出すという極めてシンプルな増殖方法。

肉眼では見えない微生物の広大な世界への扉を開けたのはAntoni van Leeuwenhoek、1632年に生まれた彼は強い好奇心を科学へと向け、ガラス玉を磨いて凸レンズを作り、200倍率というこれまでにない見事な顕微鏡を完成させる。
Leeuwenhoekが作った顕微鏡は黄銅板にあけた穴にレンズを1枚はめただけの簡単なものだった。
基本的には度の強い拡大鏡。
黄銅板の裏にはレンズにピッタリあたる突起がついており、それをネジで調節してピントを合わせるようになっている。
この顕微鏡は何を見るにも直射日光の中で目にあてて使わねばならないものだったが、制作した甲斐はあった。
Leeuwenhoekは単細胞生物バクテリアの観察記録を最初に残した人物となる。
初期の単細胞生物の大部分がその体内で行っている代謝とは光合成と呼ばれる科学プロセスによるもので、今日ほとんどの植物が行っている作用。
光合成の副産物としてでてくるのが酸素。
原始地球で単細胞生物による光合成が可能になったのは太陽の熱放出が大きくなったから。
地球の到達する太陽のエネルギーの量が最高で3割も増加した。
何10億という単細胞生物が酸素をはき出すことで、ほとんど酸素のなかった地球が酸素を豊富に含む大気を形成できた。

地球上の生物たちはまだ多細胞生物が現れていないうちから彼らを向かい入れられる状態を整えつつ、周りの環境を変化させていった。
しかし生物は単細胞から多細胞へ、酸素を放出する側から吸う側へ、どう進化を遂げたのか、それはたくさんのミスによって引き起こされたコピーエラー、突然変異だ。
もしも単細胞生物がミスをしなかったら、生命誕生の謎のパズルを解く動物、人間は地球上に現れなかったかもしれない。
形になってきた生命誕生の謎のパズル、すべてのセクションもでそろった。
生物を誕生させる要素、生物を特徴づける作用、生物を構成する基本単位、細胞、そして環境の変化・・・
単細胞生物は長い時間をかけ、どうやって酸素豊富な環境を生み出したのか。
これらのピースははめ込まれた。
次の課題は単細胞生物から複雑な多細胞生物、つまり酸素呼吸する動物への進化を解明すること。
複製のために単細胞生物が利用するのがDNA、細胞を作るための設計図。
細胞核にあるDNAは鎖をほどくとそれぞれが新しいパートナーと結合し、細胞は分裂して母細胞があった場所に2つの等しい娘細胞を作る。
しかしコピーは常にまったく同じとは限らない。
わずかな変化が見られることもある。
そしてその変化は有効でもある。
変化は生物に特定の生息場所における生存の優位性を与えることができる。
変わり続ける地球には、熱帯、寒帯、湿地帯、乾燥帯、様々な場所があり、変化は長い時間をかけて多種多様な単細胞生物を生み出してきた。

Gleiser「生命が誕生したのがおよそ35億年前、そしてアメーバが登場するまで、そこから15億年もかかり、5億年ほど前からもっと高度な生物が現れ始めた。
単純な原子細胞の生物が多細胞生物に進化し、地球をにぎわすようになるまで、とてつもなく長い年月がかかっている。」
その賑わいはより優れた繁殖方法が用いられるようになったためである。
変化を約束し、各世代が最終的には変種となることを確かにする方法。
変化をもたらすそれとは、ようするにセックスである。(生殖行動)
分裂に比べ、はるかに進歩といえる。
生殖行動は変化をもたらし、その環境に最適な特性を備えた変種が自然選択というプロセスの中で進化してゆく。
およそ5億年前、酸素呼吸する生物達が活動を開始し、地球上では盛んにコピーが行われる。
カンブリア爆発と呼ばれる元璋だ。
生物たちは多細胞生物へと進化し、そして変化は自由になった。

カナディアンロッキーの標高2400m地点、カンブリア爆発の時が分かるという。
2億5000万年前、この痩せた山腹は潮だまりだった。
Ken Williford(Geologist)「Walcott採掘場、Yoho国立公園の中にある。
露出しているのはバージェス頁岩というもので、生物の非常に柔らかい組織の化石まで含む重要な地層。
カンブリア爆発を記録している。
その時地球上で起こった動物の出現について、それから登場した動物のグループすべてについて、例えばクラゲのような軟体動物はめったに保存されない。
特殊な状況下でないとありえないことだが、その状況をここで確認できる。
ペイトイアは小さな円形で、ある種のクラゲのように見える。
後のアノマロカリスの体全体の化石が発見されると、実はペイトイアはアノマロカリスの口の部分であることが判明した。
アノマロカリスの化石は最長1.2〜1.5mほどあり、カンブリア紀中期の巨大な捕食者であったことをうかがわせる。
バージェス頁岩に存在するこの恐ろしい姿の生物は、それまで30億年ほど地球を占領してきた単細胞生物とは似ても似つかなない。
私達は有性生殖と自然選択の賜物である。
この生命誕生の説明は聖書にあるエデンの園の創造物語とはまるで異なるように思えるが、その2つに対立はないと宗教指導者たちはいう。
Rev.John Polkinghorne(Physicist)「創世記第1章は神による6日間の仕事の詳細を語っていないいが、神の意思なくして何も存在しないと説いており、神が〜あれ、〜せよと8回も言われたとある。
宗教は科学の代わりにはなれなくとも、科学が人間を誕生させたことへの理解を深めるもの。」

カンブリア爆発の後、生物は様々に枝分かれした。
複雑な変化を繰り返し、そして現れては消えていった。
昆虫、爬虫類、両生類、奇妙なもの、ありふれたもの、さらに恐竜が現れ滅びる。
マンモスもしかり・・・
そしてほぼすべての生物が消えた。
環境の変化の犠牲となったのだ。
最適な場所で暮らせるのは他の生物に優先権を奪われるか、そこがなくなるまで。
これが有性生殖、自然選択、そして進化の結果である。
このプロセスの定義づけで記憶されている科学者といえばチャールズ・ダーウィン。
1859年彼は急進的な進化の概念をつづった著書『種の起源』を出版する。
ダーウィンが説明しているのは生物がどのように変化し、進化するのか。
彼は生殖によって引き起こされ、何世代にも受け継がれてゆく変異や変化といった概念の枠組みを作り上げる。
Janet Brouwne(Harvard University)「遺伝学が発展したのは1900年頃から後、当時ダーウィンは自分の仮説が完璧でないことを最初から心得ていた。
なぜどのうに変異が起こるのかうまく説明できなかった。
彼にできたのはまずへにの発生を主張し、それからそのリストを作り自分が発見した変異のすべてを人々に伝えることであり、仕組みについては語れなかった。」
ダーウィンは種の起源において生命の誕生の問題はほとんど扱っていないが、その真意を理解する熱心な読者もいる。
James Strick(Science Historian & Author)「原題の内容はこういうこと。
時代をさかのぼるほど、共通する祖先の数はどんどん絞られてゆく。
そして最終的に一番古い時代まで戻るとたった1つ、またはごく一握りの生物が存在していて、地球上の生物はみなその子孫なのだと。」
生命誕生の謎のパズルにおいて失われた重要なピース、それはなぜここにいるのかという科学では解けない精神的な問題ではなく、実験によって解明できるいかにここに至ったのかという問題の答え。
無生物を生物へと変化させた特別なメカニズムとは何なのか問いかけができるようになったのは何かの生物が人間へと進化し、なぜと思うようになってからである。
生物がこれまで解けなかったパズルを人間が脳を使って完成させるのだ。
人間は地球における生命誕生の謎のパズルを完成に近づけている。
しかし詳細や明確な答えをもつピースは欠けているまま。
物語は科学的なものから生物学的なものにどのように変わったのか、今は仮説しかない。

Life.Inc.「研究開発を行うセクションR&D、生命を生み出す的確な環境に関するいろんな学説を研究する。
生命は海底から?地下から?それとも宇宙からやってきた?
あらゆる説を調べてゆく。
だがどの説が正しいにせよ、生命の活動はうまく軌道にのった。」
ある意味で地球は生物たちに占領されているようなもの。
森、これまで成長した木々の中で最長を誇るものは105m以上も天高く伸び、陸地や海を舞う鳥達にその手を触れようとしているかのよう。
海、生命を育む生物の宝庫、水中で漂う何兆もの小さなオキアミに始まり、体長30mを超す生物、巨大なシロナガスクジラまでもが共に暮らす。
そして陸地も生き物であふれている。
珍しいゾウ、敏捷なトカゲ、臆病なオジロジカ、脆弱な蛾、さらに私達人間がいる。
その数はおよそ70億にのぼる。
隠れているもの、腸に入り込んでいるもの、この惑星には苦境を乗り越え繁栄しようとする生物のための住処がたくさんある。
地球は間違いなく生命の地、生命誕生の謎が解き明かされないうちから人間は世界の働きを理解せねばならなかった。

生命についての仮説をたてた最初の哲学者の1人は紀元前4世紀に元素に関する初期の概念を発表したアリストテレス
Strick「アリストテレスは植物と動物の間に非常に分かちがたいつながりがあることを理解していた。
それはどちらも各機関の働きが全生態系における存続と繁殖を目的とする組織化された統一体とみなすことができるという点にある。
アリストテレスにとってこれが生物と無生物の間の明らかな違いだった。
無生物は古い方法でいい加減に作られたものに見えていたようだ。」
アリストテレスが信じていたのは自然発生
天体を構成する元素エーテルから届く太陽の熱によって無生物から自然に生物が誕生するという説。
例えばネズミや穀物から生まれるといった具合に。

Strick「彼いわく熱は地球上の物質以外で作られている。
そのほかの天体から供給されるものでなければならなかった。」
アリストテレスの唱えた自然発生説は驚くほど長い間支持され続けることになる。
Antoni van leeuwenhoekが新たな顕微鏡を発明し、17世紀後半になるまで深く疑問に思う者はいなかった。
Strick「1668年にイタリアの自然哲学者Francesco Rediがウジは腐った肉から自然発生するものではないことを実証する有名な実験を行った。
彼はハンターや食肉業者から腐ったりウジがわいたりしないように夏場は肉を布でおおっているという話を耳にする。
そこで様々な肉をそれぞれ瓶の中にいれ、その口をモスリンという布でおおい、放置してみた。
すると瓶の口にかぶせた布の上にハエがとまって卵を産み付け、やがてそこからウジが発生したが、思った通り中の肉には変化がなかった。」

それでも依然として自然発生説は18世紀まで根強く続いてゆく。
1713年にイギリスに生まれたカトリック教会の司祭John Needhamもこの説の支持者の「1人。
Gleiser「彼はまず死んだ者の肉の破片や枯れた植物などの有機物を集めてガラス瓶の中に入れ、その口にロウか何かを使って栓をし、そして煮沸するという実験を行った。
煮沸によって生物は死滅するはずだったのに、この中ではまだ増殖が確認できる。
つまり煮沸では自然発生説を否定できないというのが彼の結論だった。」
ところが実はガラス瓶の栓がしっかりしておらず、煮沸の後中身が空気に触れていたのだ。
そのせいでまた生物が繁殖したのだ。
ニーダムと彼のよき師であるComte de Buffonは生物はいわゆる生命の原子で構成されていると信じていた。
それは生物が死ぬとき、体から抜け出てひと塊になり、別の新たな生物を作り出すということ。
Strick「2人は死んだ動物の体が分解されてゆく時の分子の働きを調べてたくさんの観察結果を発表した。
その中で有機分子が解き放たれた分解場所に集まり、一塊となってもとの生物とまったく同じものが誕生するのを見たと述べた。
そして自由に旅立っていったと・・・」

1729年イタリア生まれのLazzaro Spallanzani、博物学に長け、偶然にも同じ聖職者の彼は、Needhamの生命の原子を自分の宗教的信仰に合致しないと批判を展開する。
Strick「彼もガラスのフラスコでNeedhamと似たような実験を行った。
この時は蓋をするためのコルク栓ではなく、粘着性のあるものを選んだ。
フラスコの先端、口の部分を火で溶かして閉じた。
そして密閉状態になった中身を煮沸した。
彼は中身が濁ってくるかどうか確かめるために何日間も待った。
濁りは微生物の増殖を意味する。」
結果液体は透明なままだったが、Needhamは密封されたフラスコでは生物に必要な生命の原子が遮断されてしまうからだと反論、論議は平行線をたどるが結局自然発生説は科学的証拠の積み重ねによって19世紀に否定されることとなる。

1862年フランスの科学者Louis PasteurがSpallazaniとNeedhamの論議に立ち戻り、より綿密な実験によって自然発生説の誤りを証明した。
Strick「PasteurはNeedhamの古い主張をきっぱりと退けるために空気がちゃんと液体部分に触れられるような方法を探った。
しかし空気中にはバクテリアが漂っていて、それらは遮断せねばならない。
フラスコ内で繁殖を起こしてしまうからだ。
Pasteurが使ったのは3組のフラスコ。
1つはしっかり密封したもの、もう1つは口は開いたままだが首が細く複雑によがったもの。
最後は口をあけたままのもの。
変化はほんの数日で分かれた。
最初の2つの液体はきれいなまま、2つめにもバクテリアは発生しなかった。
長く曲がった首がその侵入を防いだのだ。

これらの実験でPasteurは自然発生説に終止符をうつ。
Harold Morowitz(George Mason University)「この実験には後日談がある。
Pasteurが生物は自然には生まれないことを人々に納得させると、その後30〜40年間誰も生命の起源について考えなくなった。
実験の説得力が強すぎて生物は生物から生まれるという話はいったん影をひそめてしまった。」
自然発生でないなら生命はどのように誕生するのか、どのように科学から生物学へと変わったのか。
少なくとも1度は無生物が命ある生物へと変貌したのは疑いない。
事実であるが果たして自然発生説以外のその方法とは?

19世紀に入り科学と生物学の分野が進歩すると、自然発生説の地位は揺らいでゆく。
そこで登場するのがイギリスの自然科学者Charles Robert Darwinが密かに提唱した別の概念。
Browne「科学分野で親しくしていた友人のジョセフ・フッカーにあてた晩年の手紙の中でDarwinは生物を誕生させる条件についての推測を述べている。
生物を最初に創造するための条件は現在すべて手に入ると言われているが、もしもまず考えられないとしても、ある暖かい池のようなものがあったらどうだろう。
それは一種のアンモニア、リン酸塩、光、熱、電機などを含んでいて、より複雑な変化に耐えられる化合物を科学的に作り出すことができるのだ。」
Dawinが示唆したのは化学も生物学も小さなスケールまで突き詰めてゆけば同じ自然科学、同じ道であるということ。
そしてその道は生命の起源につながっている。
しかし起源とは何なのか、彼には答えられなかった。

Dawinの小さな暖かい池は20世紀になり、原始スープと名を変える。
原始地球の生命のるつぼだ。
原始スープの概念を科学的に擁護するにはまず中に入れる材料は簡単に手に入るのか、どんな条件で煮込めばよいのかを明らかにする必要がある。
ソ連の科学者Alexander Oparinは原子の環境下によいて無機物質から有機物質ができ、それがさらに発展して原始地球での生命誕生につながったという仮説を打ち立てる。
しかしどんな状態が奇跡のような出来事を引き起こしたのだろう。
当時手に入れられた情報に基づいて、Oparinは原始地球の大気には酸素がなく、他のものが大半を占めていたと推測する。
メタン、アンモニア、水素、そして水、さらには太陽からの紫外線が有機物にエネルギーを与え、それが科学的に生命へ進化したのだという考え。

イギリスの生化学者J.B.S.Holdenも本質的に同様のシナリオを提案。
Strick「OparinもHoldenも生成された有機化合物は、海に蓄積されたと結論付けている。
彼らの言うところでは、その結果海が有機的で濃厚なスープのようなものになった。
彼らは言った、統計学上まったく想像もできないが、挑むのは地球の何10億年という歴史なのだと。」
しかし科学者達ははるか大昔に起こった現象を実験室においうて検証、または再現できるだろうと小さな期待を偉大している。
ノーベル賞の受賞者Harold Ureyの指導のもと、Stanley Millerはある装置を考案、OparinとHoldenの主張を検証しようと決意し、古代の地球の大気、あるいはそれを再現したものを使って実験を行う。

Jefferey Bada(Scripps Instittute)「その装置は地球の状態をシミュレーションするための特別な構造で海を想定して中に水を入れたガラスのフラスコと大気を想定したもう1つのフラスコがセットされている。
電極がいれてあり、火花放電が行える仕組みになっている。
冷却器は大気中に生じたものを凝縮して管に流し、もとの海の中に戻す。
つまり流れは循環する。」
40億年前の地球と似た環境下で有機物が生成されるか確かめるのが目的だったが成し遂げられるかは疑問だった。
地球が長い年月をさいてきた仕事を6ヶ月で達成しようとは無謀にも思える。
Bada「装置をセットするMillerに言われた。
重要ポイントの1つは装置から完全に酸素が抜けているか確認することだと。
酸素と水素にスパークで火がつけば爆発する。
準備ができると大学院生の仲間は部屋を出て行ったそうだ。」
部屋は吹き飛んだりせず、スイッチを入れると電極は静かに発火し始め装置は快調であったがこれで何が証明されたのだろうか?
Bada「1日ほどたって最初に気付いたのは水が茶色っぽくなり始めていることだった。
そこでさらに5日ほど放電を続けると、水はどんどん濃い茶色へと変わっていった。
中で何が起きたのだと考え、5日間でもう十分と考え装置を止め、分析を開始した。
最初に発見した結果の1つはグリシンやアラニンをはじめとする何種類かのアミノ酸が生成されていること。
この装置でこれらの化合物を簡単に合成できることに驚いた。」
地球上の生物の構成要素であり、生成には何100万年とかかり、非常に特殊な条件が必要であると考えられていた有機化合物、Millerはそれを初回の実験で1週間もかけずに作ってしまった。

1953年Millerがサイエンス誌でこの実験に関する論文を発表すると、ニューヨークタイムズも生命とガラスの地球というタイトルで記事を書く。
生命の起源に関する近代の研究は1952年のMillerの実験を受けて開始されるが善し悪しが分かれるところ。
歓迎すべきは生命誕生についての知識の隙間を埋めようというMillerの研究に触発され、たくさんの科学者が誕生したこと。
国中、そして世界中の研究室で作業は続けられている。
忌むべきはMillerの実験が理不尽な期待を生んだこと。
Robert Hazen(Carnegie Institute)「成功したUrey-Millerの実験は他のたくさんの人々に生命を作り出すのは簡単だと思わせてしまった。
アミノ酸も糖質も脂質も生み出せる。
後はそれらを混ぜ合わせて細胞の出来上がりだと。
そんな単純ではない。」
地球の大気はアンモニアやメタンというMillerの実験に重要物質をほとんど含んでいなかったことが1960年代に入る前に示され、彼の前提とは異なることが明らかに。
科学者達は生命誕生に関するその他の理論を探求するようになる。
彼らは競い合いあまねく地球を掘り返してゆく。
海中や地下深くを・・・
地球上でどのように生命が誕生したのか、その答えを求めるレースが始まる。

生命の基本要素となるものはもちかしたら別の環境下や原始スープ以外のところで生まれたのではないだろうか?
答えの1つは文字通り空から降ってきた。
Gleiser「1969年オーストラリアのビクトリア州にあるマーチンソンというところに隕石が落下したが、その隕石の中には多くの有機化合物が含まれていることが分かった。
たくさんの人々が調べに行って実際炭素などの元素を見つけた。
他により複雑な物質であるアミノ酸も検出した。
この隕石からはいろいろなことが見えてきたが、中でも驚いたことはある可能性。
それは複雑な分子は宇宙空間で合成できるかもしれないということ。」
生命の起源の研究者達にとってマーチソン隕石は金にも匹敵する。
Dave Deamer(UC Santa Cruz)「分析を行うと様々な種類のアミノ酸を含むことが分かり、アミノ酸は私達の生活圏外でも確かに合成されるということの裏付けとなった。」
驚くべきことにマーチソン隕石から検出されたアミノ酸のいくつかは1952年にMillerが生成したのと同じ種類であったがそれだけではない。
Deamer「こういう実験を行った。
まずマーチソン隕石からほんの少し何グラムかサンプルを採取して有機溶剤と一緒にすり鉢で細かく砕く。
この溶剤は私達が脂質と呼ぶような分子を抽出してくれる。一種の脂肪分子。
または油性分子。
顕微鏡で観察すると抽出した油性分子とそれを取り囲む水の間で分離が起こっているのが見られる。」
脂質が水の中で自然に細胞のような構造を築いてゆく。
太陽系より古い隕石の中で発見された生命の重要な特性の1つである。
地球上の生命の基本要素は地球が誕生するずっと以前より存在したのだとマーチソン隕石は語っている。

1970年代に入ると天文学者は特別な望遠鏡で暗黒星雲の中に他の有機化合物を発見する。
Gleiser「だからこの地球上で何かに放電するというようなUrey-Miller方式のアプローチは必要ない。
仕事をしたのは紫外線、エネルギーを供給して単純な物質がより複雑なアミノ酸へと変換する反応を引き起こしたといえる。
その重要な意味とは地球上で生命を生み出したアミノ酸が実は宇宙で作られたものかもしれないことを示している。
つまり地球上の生命は地球そのものが生んだのではないのかもしれない。」
この発見はパンスペルミアと呼ばれる仮説を後押しするものとなる。
生命あるいは生命の主要な構成要素は宇宙のどこか、例えば別の惑星で発生したのだとする説。
そしておそらく彗星や隕石に乗って地球に運ばれてきたとしているが、知能の高い異星人によるものだとする過激な見解もある。
何らかの形で宇宙から来た生命が地球に住み着いた可能性は理論上もっともらしいが生命誕生の謎を解く助けにはならない。

パンスペルミアは抜きにして有機化合物が宇宙から飛んできたのだとしたら、地球の生命発祥に関する有益な情報が地球の至る所にあるのでは?
Hazen「生命の起源については大きく2通りのアプローチで足りない知識を埋めてゆく。
1つはボトムアップ、それは地球科学的に単純はものを考察して科学的により複雑なものにしようとする、実験室で使われている方式。
そして別のグループが採用している方式はトップダウン、現代の地質環境や生物環境を調査して現存するもっとも単純で原始的な生物を探す。」
新たな発見や概念が現れてもなおMillerは自身が提示したアミノ酸生成の方式を盛り込まない生命の起源についての見解を認めようとはしなかった。
同僚のJefferey Badaらと共に実験の修正を行ってからは特にだ。
Bada「Millerが健在だったころ、私達は天然ガスの混合物を使って実験をやり直し、きちんとした結果を出すことにした。
実際に行ってみるとそこには確かに検出が可能なレベルのアミノ酸が生成された。
自然の大気においても一定の確率以上でアミノ酸を作り出せることが分かった。」
Miller達は原始スープが地球上の生命誕生へのもっともシンプルで論議的な道筋であることを証明したと考えている。
Hazen「生命の起源の分野には様々な派閥やあらゆる見解があり、それぞれが立場を競い合っている状態だが、異なる真実がたくさん存在することもありえる。
しかしMillerは他の説にも耳をやりはするものの、違う、正しいのは私だから、その見解は間違っていると言ってしまう。」
Bada「あらゆる反応をメモし、紙の上で解き、机上の科学と呼んでいた。
自然のシステムの中で起こったこととは関連性がないが、物事をそうやって理解した。」
2007年にこの世を去るまで、Stanley Millerは純粋に原始スープ説を信じ続けていた。
しかし生命誕生に関してはそのほかの説が有力となっている。
地球上の生命には奇妙で驚くべき起源があるという説が・・・

Hazen「地球上で生命の誕生が可能だった場所はたくさんあると思う。」
お伽噺の虫のような姿をしたポリプやプランクトンは地上の1000倍という水圧の海底3000mを超す場所で日光も酸素もなしに生活する極限環境を好む生物。
そばでは火山硫黄が噴出し、水温は常に70℃にもなるが、ここは生き物があふれている。
海底の噴出孔付近に見られる高温高圧の環境下でMillerが生成したものに似たアミノ酸は作られるのだろうか。
Hazen「カプセルの中には非常に単純な有機化合物と鉱物粉末、二酸化炭素のようなものをほんの少しと水または単純な分子といった原始地球にあった物質を入れる。
カプセルは溶接で作る。
一方の端を閉じ逆さにして中身を入れたら反対も閉じて完成。
出来上がったものは深海の噴出孔付近の高温高圧環境を再現する装置の中へ。
原理上は圧力鍋の働きと同じ、圧力鍋の場合はおそらく大気圧の2.5倍が限度だが、この装置を使えば4000倍の圧力が加えられる。
そしてカプセルを装置にかけること数時間。
一連の実験の結果単純な分子キルビン酸ができた。
その少量を加熱、圧搾すると黄褐色で油性のドロドロしたものになる。
そしてそれをディーマーの実験と同じく水に入れると膜を作る。」
しかし言うまでもなくMillerの同僚をうならせるまでには至らない。
Bada「高温すぎる。
熱水噴出孔付近の水を調べたところ、有機化合物は含まれていなかった。
検出されたとしたら、サンプルの中に二次的に溶け込んだ海水の汚染物質のせいだろう。」

研究されている生命の起源についての可能性は他にもある。
例えば粘土、生命を作り出す際の触媒だったのか、つまり粘土が化学物質から生命誕生への進化を促進したのか。
Hazen「年度は表面が電荷していてその微粒子が有機分子を引き付ける。
例えば原始スープからそれらを吸い上げて凝縮し、表面に付着させる。
凝縮されたために分子はスープの中にいる時よりもはるかに効率よく反応を起こせる。」
James Ferris(Rensselaer Polytechnic Institute)「地球上で化学反応の触媒が可能な物質といえば、たいてい単純な鉱物、または金属鉄といったもの。
研究の結果特定の粘土鉱物モンモリドナイトがRNAを形成する際に触媒となることを発見した。」
RNA(リボ核酸)はDNAのシンプルなバ−ジョンのようなもので、原始生命体によいてコピーマシーンの役割を担ってきた。
Hazen「Ferrisは遺伝の分子RNAを構成している個々の成分を集めて粘土と一緒にしてやると粘土が自然にそれらをRNAやDNAのような情報が組み合わさった長い鎖状の遺伝情報を伝達する物質に合成するということを行ってみせた。」
RNAワールド仮説は原子のアミノ酸仮説からは大幅な飛躍となるが、これがFerrisと彼のチームがニューヨークのレンセラー工科大学で取り組んでいる研究。
Ferris「Millerの実験で生成されていたのは単純なアミノ酸でそれが重合体、ようするにアミノ酸ポリマーに発展することはなかった。
私がずっとやってきているのはRNAの合成過程における次の段階を調べること。」

しかしFerrisたちが単純なアミノ酸を無視して複製する分子の研究に取り組むのならば、それすらも飛ばして細胞の膜、代謝、複製に焦点をあてればよいのではないだろうか。
つまり研究室において実際の生物の創造を行うということ。
それを試みている科学者達もいる。
彼らは人工生命の誕生を目前にしているのだ。
もしそうならば地球の生命誕生に関してそれは何を教えてくれるのだろう。
アリストテレスの時代からほぼ3000年、生命の定義づけには難題が残っている。
例えば雪のかけら、水の結晶形だが、それぞれの形は突如として現れる自然界でもっとも美しい複雑性を体現するものの1つ。
ところで雪の結晶や結晶形をしたものは生きているのか。
Peter Ward(Biologist)「初期の生命の定義には結晶にあてはまるものもある。
結晶は周囲から構成要素を経てある意味代謝をし、化学反応によってエネルギーを使い自分の体をどんどん大きくしてゆく。
つまり複製だが進化もしている。
彼らの移動と同じくらいかすかな状態の変化だが、おそらく小さくなったり大きくなったりしている。
結晶では代謝、複製、進化の3つが見られる。」
Neil de Grasse Tyson(American Museum of Natural History)「生命の定義の中には結晶が満たしているものもある。
星は代謝を行い、誕生し、生涯を全うしてまた再生するのに生物とは言わない。
重要なのは研究室で振るビーカーから何かが這い出てくること。
それがゴール、たどり着くまで定義は気にしない。」

研究室では今にも人工生命が誕生しようとしているようだ。
ハーバード大学のJack Szostak(Harvard University)を含む世界の6つの研究チームが元気な赤ちゃんの生みの親となる日もきっと近いだろう。
Szostak「私の研究室では主に科学から生物への推移を理解しようとしている。
20年前これは今日までに統制できるといってしまったが、もう20年かからないことを願う。」
生命を作り出すSzostakの試みは地球が選らんfだプロセスと同じく細胞から始まる。
Szostak「これは原始細胞と呼んだりしている。
主要構成要素を2つ備えていて、1つめは細胞膜の境界構造、もう1つは一種の遺伝物質、そしてここでどうすればそれらを分裂、成長させられるのかが分かれば細胞についての非常にシンプルな理論を組み立てられる。」
Raphel Bruckner(Graduate Student)「使うのはマイクロ流体工学という技術。
高圧下で異なる流体をマイクロチャンネルに送り込んでやると、それらが面白い構造に再結合する。
見た目でいうと細胞のようなものを真似た感じの構造。
ここに3種類の流体を用意した。
それぞれがポンプにつながっていてすべての流体はこの管を通り、装置に流れ込む。
ここに見えているのは水、油、水、これが再結合して二重エマルションの液滴と呼ばれるものを生成した。
装置からでてきた液滴は集めておいてさらなる実験に利用する。
コントロールされていることを除けば蛇口から漏れる水滴のようだ。」
Hazen「Szostakの研究室には基本構成要素がそろっており、細胞膜形成の方法も明らかにしているわけなので、自己複製するRNA分子の生成まであと1歩だろう。
もしそれでコピーを作り複製を行う細胞の中にでもいれれば、本質的に実物とそっくりなものが出来上がってくる。
現実に存在するもっとも単純な細胞の複雑さと同じではないが、それでも自己複製が可能な科学システムであり、淘汰圧を受けてもなお進化し続けてゆくのかもしれない。
その場合生命の定義にあてはまる。」

Szostakの研究がうまくいけば、画期的な科学の出来事だが、それは生命誕生の謎に答えをくれるのだろうか。
生命誕生の謎の根本にあるのは生物であれ、無生物であれ、宇宙のすべてを作り上げたものと生命の構成要素は同じだということ。
星屑から細胞、そして探求心をそなえた人間まで。
科学者達には大昔に誕生した生命が、たくさんある中からどの道筋を選択したのか議論するという課題が残されいている。
しかし進んだ方向もどんな手段を利用したのかも根本的な問題にはすでに答えが出されている。
生命の誕生についての科学がたくさんの人々に与えたのは畏怖の念と科学の力では生命の謎を解き明かせないのだという驚きである。
生命は想像もできないような過酷な自然環境のもとに作られ、それは大きなかけだったのかもしれない。
だがそれは実行された。
少なくとも1度は・・・
私達がその証拠である。
物理学と科学の法則の輝かしい証。
そちえ私達の知識の及ばない大きな力の証。
無生物が生命を持ち、呼吸し、思考する生物へと進化する能力をはるかにしのぐ存在が地球にはあるのだ。

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ハイテクのルーツ Super Tanker

ロンドンの町に1週間分の電力を供給する貨物を積んだタンカー、貨物のエネルギーは核爆弾55個分。
LNG(液化した天然ガス)数100万リットルを運ぶ巨大な船。
室温では可燃性の高いガスに形を変えるタンカーの中の液体は、料理や住宅暖房用のガスになる。
世界各地への天然ガス輸送はビッグビジネス。
特大タンカーはタイタニック号より大きく、世界中へのガス輸送用に設計されている。
スクリュープロペラだけで男性の身長の5倍、重さは48トン。
どのように世界中に莫大な量のガスを運ぶのだろうか?
船は艦ドッグになければならず、タンクから有害な貨物の痕跡を完全に取り除かねばならない。
タンク内部に潜入・・・
広々としたタンクに響き渡る不気味なエコー。
3400万リットルの液化ガスが入る。
水なら1200年間イギリスの平均的な家庭のトイレを流せる。
タンクは4つ、内部は-160℃。
石油同様天然ガスも古代生物が分解されてできた化石燃料。
パイプラインで輸送できるが費用が高額で、広い海を横断するのは非現実的。
代わりに船で輸送する方法を考案する必要があった。
気温が何度でも天然ガスは発火するので難題。

安全にガスを輸送する方法を知るため、イングランド北部にある特別な爆発試験用施設を訪ねる。
ここでは大掛かりな工業用安全装置のテストを行っている。
実験は爆発に耐える部屋で行う。
工業規模のオーブンのようなもの。
装置によりチューブを通ってガスが供給される。
点火装置は火花を作り、ガスを点火し燃やす。
家庭で使用されるより大量のガスだがここは安全。
点火!ガス放出!わずか数リットルのだが火は高く燃え広がった。
何百万リットルものガスがちっぽけな火花で引火するところを想像してみると怖い・・・

貨物には原子爆弾55個分のエネルギーがある。
流出したら大惨事になり得る。
しかし大事故は起きておらず、今後も起こらないと思われる。
簡単な解決策があるからだ。
ガスを液化するのだ。
液体では引火しない。
その上容量が小さくて済む。
貨物がガス状なら極端な大きさのタンカーが必要、それには600倍の大きさが必要、およそ2500mの長さになる。
ガスを液化するには-162℃に冷却する。
南極の寒さのおよそ2倍。
しかし少々温めるだけで可燃性ガスに戻ってしまう。
そのため第2の安全策が必要。
通常ガスはタンカーの壁の向こう側、液化して数千万リットルの量になる。
液体がつぐに使えるガスに膨張すると数10億リットル。
液体が漏れて気体に戻れば大問題。
そこで戦前の飛行艇の技術が使われた。

1930年代大英帝国の飛行艇は、英国からオーストラリアまで空を1100km郵便や乗客を運んだ。
飛行中の燃料補給はあたりまえ、と考えられているが、航空燃料は天然ガスと同様可燃性の高いもの。
燃料補給パイプが接触して火花が散ればドカン。
火花にな引火を防ぐものが必要だった。
採用されたのは有毒な空気。
1772年にDaniel Rutherfordは窒素を発見してそう名付けた。
大気中には大量の窒素が存在するが窒素だけだったとしたら人は呼吸できない。
窒素は不活性ガス、他の物質とは簡単には反応しない。
その上火花が散っても燃料が酸素と化合するのを防ぐ。
窒素が周りに十分あれば発火は不可能、火は窒素の中では燃えない。

実験、さっきの巨大オーブンで行う。
窒素が中に入っている。
まずは安全のため、有毒ガスを外に出さないよう密閉する。
窒素注入、そばにある特別な部屋の中から観察する。
メーターに酸素レベルの低下が示され、窒素が点火装置の周りの空気にとって代わる。
理論的には十分な酸素がなければガスは燃えない。
10という数値は部屋に酸素がほとんどないという意味で、今はほとんど窒素。
では火花を作ろう、点火装置にまだガスは入っていない。
通気管の先に火花が見えるはず。
次に煙を出す。
煙がないと、いつガスが流れたかわからない。
今ガスは入っていない状態。
ガスが流れ込むと煙は通気管から立ち上る。
部屋には窒素が充満し、火花は発火している。
ガスが流れている。
この時点で点火を阻止する唯一のものは窒素のはず。
ガスが流れそれと一緒に煙が通気管からでてきている。
先ほど燃やされていたのと同じガスだ。
窒素が入っているので何事もない。
予想通りガスが入っても窒素がしずめている。
火花に引火せず燃えない。

窒素はLNGタンカーを守り、空中燃料補給も可能にする。
素早く噴出した窒素が補給パイプを通り、爆発のリスクを取り除く。
窒素のおかげで大英帝国の飛行艇は1938年に初めて大西洋横断を果たした。
LNGタンカーではそれ自体有毒な窒素が安全にガスタンクの中に隔離され封じられている。
万一罪にの液体ガスが燃えた際には充填された窒素が液体ガスを酸素から隔離し爆発を防ぐ。
タンカーの超低温フリーザーは世界最大で、30万個を超える家庭用冷凍庫に相当し、内部は10倍低い温度。
ガスは陸上で冷却され、液体はタンカーにパイプで運ばれる。
しかし超低温度が難題をもたらす。
標準的な鋼鉄のパイプは使えない。
船の周りにパイプで超低温の液体を移動させるのは新たな問題を生む。
解決策はスプーン、フォーク、ナイフ・・・重要なのは素材、ステンレス鋼。

100年前多くの食器類は別の金属でできていた。
普段使うものは銀、あるいは鋼鉄製だった。
しかし鋼鉄は錆びるので夕食に使用するには不快。
また多くの素材のように超低温に置くと完全に変化する。
例えばパン、室温では1枚のパンは柔軟で展性がある。
パンを凍らせると硬くなるが、もろくなる。
鋼鉄が同じように反応したら悲惨・・・

ジャッキー・バターフィールドは素材の専門家で鋼鉄のコンサルタント。
中世の拷問器具を実験に使い、金属の強度をテストする。
10kgの錘を持ち上げ固定する。
生贄第1号は標準的な鋼鉄のパイプ。
錘の持つ潜在的エネルギーが運動エネルギーに形を変え、サンプルに吸収されるかされないか。
結果は凹みもしない。
錘が勢いよく激突しても外気にさらされただけの鋼鉄のパイプは無傷で残り、エネルギーは跳ね返って周りのフレームに伝わった。
次は液体窒素で極低温度に冷やした鋼鉄でテスト。
液体窒素投入、-195℃、液体窒素は鋼鉄の温度を劇的に下げた。
船上にパイプを通しているガス輸送船と同じ。
結果は粉々に割れた。同じサンプル、同じ金属なのに・・・
冷やすともるくなるパイプなど使えない。
代わりに超低温に耐えられる素材が必要だった。

スプーンの素材はステンレス鋼。
1913年イギリス人科学者Harry Brearleyは大砲に使う丈夫な金属を探していた。
クロムと鋼鉄を合わせたが軟らかすぎた。
しかし不合格の合金から、予期せぬ恩恵を2つ得られた。
その1つは錆びないこと。
これは食器に適していた。
LNGタンカーにも適す。
超低温でもステンレス鋼は脆弱にならない。
ステンレス鋼は合金なので結晶構造が違う。
原子配列が変わる。
クロムを加えるともろい鋼鉄が極低温度に耐えられるようになる。

LNGタンカーは世界中の海を航海できる船体を持っている。
さらに船内を走る数1000mの複雑な配管はベンド管、ダブルジョイント管などで結ばれているが、それらはステンレス鋼で作られた。
しかし船による液体輸送には別の難題もある。
船が揺れ動かないようにすることだ。
問題はタンカーに入れる2種類の液体だった。
行きは液化ガスを運び、空になる帰りは船を安定させるために水を運ぶ。
水も実はやっかいもの。
液体貨物が船内で跳ね回ったら大変。
風や波が船を揺らすとタンクの中で液体が左右に動く。
その動きが徐々に高まり、船の揺れを増幅し大変危険。
自由表面効果と呼ばれる。
どの程度のものか、試してみよう。
バンに乗る。自由に跳ねとぶ大量の水が入った巨大タンクを後ろに積んでいる。
自由表面効果とは液体が自由に揺れ動き、安定性を失う現象。
バンが転がった場合に備えて装備は万全。
まずゆっくり走り少しゆすってみる。
コーナーに入ると水はとどまろうとして右に偏る。
進行方向に影響を及ぼす。
左にきって右にきると水が飛び散った。
突然行きたい方向と反対方向に車を引っ張られる感じがする。
運転しているのは自分なのか、タンクの水なのか・・・
アクセルを踏み、荒れた海を液体貨物を積んだ船が進んでゆくのを想像しながら、できるだけバンのアクセルを踏む。
そこらじゅう水豚し・・・
カーブをきった時跳ねとぶ水の勢いでバンは横転してしまった。
これが自由表面効果。
同じことが船で起きれば大惨事。

1987年自由表面効果によりMS Herald of Free Enterpriseが転覆、うっかりあけたままだったドアから水が流れ込んだ。
およそ200人が死亡した。
LNGタンカーにはこの問題への驚くべき工夫がある。
自由表面積を減らすため、ガスタンクは球状で巨大なボールのよう。
タンクが満タンかほぼからであれば液体が跳ね回る現象を防げる。
このタンカーは積み荷を98%積んで出港する。
そして長い旅の後、目的地で積み荷を全部、あるいはほぼすべて降ろす。
帰りに必要なだけの燃料を残して。
つまりタンクは通常ほぼ満タンか空なので、バシャバシャ揺れ動く。
積み荷が空だとタンカーは海上高く浮かぶので、下げるためにガスタンクの下にある船体の中にバラストタンクに水をくみいれる。
球状にするにはスペースが足りないので水が揺れ動くのを防ぐ別の解決策が必要。

第二次世界大戦、爆撃でイギリスの消防士は多忙だった。
タンクローリーで4000リットルもの水を輸送するので、自由表面効果により運転は危険だった。
それと対照的に現代の消防車は横転することなく高速で走れる。
積み荷を仕切るバッフルのおかげ。
バッフルでオイルタンカーの転覆を防ぐ方法は1880年に初めて導入された。
ガスタンクの下のバラストタンクの仕切りは水が揺れ動くのを防ぐ。
自由表面効果はない。
ガスタンク内でバッフルは使われない。
バッフルで仕切ると摩擦でガスが加熱されて危険。
空か満タンでタンカーは安定する。
しかし満タンのタンカーを推進させるのは大変困難。
積み荷を満載したタンカーの重さは113000トン、航行を開始したら完全に停止させるのに1時間は要する。
そのそもどうやって発進させるのか。
現代の船は最先端のメカニズムが複雑なコンピューターシステムによって動いていると思うだろうが、コンピューターについてはその通りだが、メカニズムは違う。
広大なタンカーの中には大きなエンジンがある。
非常にパワフルで30000馬力、世界中の海を渡ることができる。

内部は数100年前初めて用いられた原理にのっとっている。
実際は2000年前に発明されたアイオロスの球
ギリシャの科学者にちなみ、ヘロンの蒸気エンジンという名で知られている。
底には水のタンクがある。
水を加熱すると蒸気に変化、先端に移動し蒸気が立ち上る。
蒸気の出口はノズルの先の小さな穴、ニュートンの法則の登場、そこから蒸気がでると等しく反対の反応を及ぼし先端を回転させる。
あとは圧力が高まるのを待つだけ。

同じ原理が古代ギリシャで寺院のドアを開けるマシーンに使われた。
2000年の間に蒸気が世界を変え、産業も輸送も進化した。
当時は最新の技術だった蒸気エンジンは、今では過去のマシーンと考えられている。
にもかかわらずLNGタンカーの技術者が採用したわけを探る。
蒸気エンジンの専門家リチャード・ギボンを招き爆弾とその蒸気の潜在能力を実演してもらう。
とても頑丈な容器に水を入れ、泥の中に埋める。
機関車からでる蒸気が水を加熱する。
ヤカンからでる蒸気のように通常水は沸騰し機体に変化し漏れ出る。
しかし水が蒸気に変化するのを蓋が防ぐ。
密閉されて水が膨張できないからだ。
代わりに内部の圧力がますます高くなり、ついに爆発する。
蒸気に姿を変える水には巨大なエネルギーが閉じ込められている。
通常の沸点をはるかに超えても蓋がはじけ飛び、圧力が放出されるまで水は蒸気に変わらない。
それから瞬時に膨張し爆発する。
実験の犠牲になる納屋を動かすには大勢の力が必要。
まもなく吹っ飛ぶ予定の納屋を設置し、ボイラーに点火、バルブをあけ蒸気を埋めた容器に注ぎ込む。
蒸気爆弾が作動しあとは待つだけ。
金属の容器が熱くなるにつれ、その周りの水たまりが沸騰し蒸気になるのが見える。
しかし中の水は沸点をはるかに超えているのに蓋がはじけ飛ぶまで蒸気に変わらない。
圧力計の針が徐々に上がる。
ギボンはおよそ5.5バールで爆発すると予想した。大気圧の5.5倍。
沸騰しぬかるんだ水たまりから蒸気が出て、納屋はフィンランドのサウナのよう。
容器のふたは高まりゆく圧力のため歪み始める。
5.5バールあたりで上下する。
大爆発に見舞われるはず。
撤退!7.5バールで爆発。
納屋は木端微塵。
ただ水を沸騰させるだけで納屋は蒸気圧によって消滅した。
容器自体は無事だったが蓋は吹き飛んだ。
容器は空、水は1滴残らず瞬時に蒸発し、大きく膨張し、力になる。
納屋は粉々・・・

世界の海で巨大LNGタンカーを推進するのと同じ蒸気の力だ。
タンカーの圧力容器は納屋に使ったのよりもっと大きく2個ある。
1日中毎日高圧の蒸気を発生させている。
エンジンルームは常に大量のエネルギーとパワーに発生し貯えている。
納屋の圧力容器の中は140℃だが、ここの蒸気は510℃、8倍も高い圧力がある。
マーク・ホジソンがLNGタンカー船団を管理している2つの巨大コンテナにより生産されたパワーの説明をしてくれる。
「ボイラーからでる蒸気は全部合わせると1時間当たり110トン。
毎日この装置で処理されるのはオリンピックサイズのプール1つ分とほぼ同じ量。
その蒸気圧と熱は下の階のタービンにおくられる。
ヘロンの蒸気エンジンと同じ原理で巨大タンカーにパワーを供給。
スクリュープロペラを回転させる。
それだけでなく、クルーのテレビなど船上のあらゆる装置にも電力を供給する。
このような船では蒸気からのパワーを生かす。
秘密はタービンにある。
マークが船の電力を発生させるシンプルなマシーンを見せてくれた。
蓋を外すと蒸気の力で回転する数100のタービンの羽根が現れた。
「端に蒸気が入ってきて各部分に蒸気が注入されるとローターに回転する力が作用する。
蒸気がタービンを回す。
巨大な力が加わる場所はボルトでしっかり固定されている。
中に封じ込められた圧力は非常に高い。
蒸気圧は60バールになる。
シンプルで美しい。
この巧妙な装置の内部には動く部分が1つある。
船全体を動かすタービンにも動く部分が1つある。
蒸気で回転することによって。」

このタービンは強力だが船を動かすタービンはこれの7.5倍。
ボイラーで発生した蒸気はタービンを動かしギアボックスへ入り、ギアボックスからプロペラ軸に移動。
その後船尾でプロペラ軸がスクリュープロペラを回転させる。
こうして船を動かす巨大な力が生まれる。
これらのタンカーは非常に効率よく設計されている。
自らの貨物を流用して蒸気を生み出している。
毎日消費する水25トンも周りにある海水を利用している。
しかし海水は腐食性が高く、飲み水には使用しない。
海水は沸かして蒸発させ、塩を取り除く。
再び蒸気の出番。
さらに効率的にするため、進化の父・自然科学者ダーウィンの唱えた原理を取り入れる。
アンデス山脈で野生生物の調査中に、ダーウィンはジャガイモをゆでようとする登山者の悩みに気付いた。
茹で時間が長くかかるのだ。
彼は山の高さに原因があると考えたが、まさにその通りだった。
水は100℃で沸騰することが知られているが、山中では沸点が異なることにダーウィンは気付いた。
芋の茹で時間はより長くかかる。
高所では気圧が低いので、低い温度で水が沸騰するからだ。
沸騰している水は熱くなかった。
水で芋は茹でられない。
気圧を十分に下げれば加熱せずに水を沸騰させることもできる。
沸騰とは水が100℃に達することではない。
異なる温度や圧力であっても液体から機体に変化することを沸騰という。
タンカーでも圧力を低下させることにより低温で水を沸騰させる。
蒸気を利用する。
まずは水を急速に沸騰させ蒸気にする。
その後今度は圧力をさげて蒸気を素早く液化し水にする。

実験、液化装置を作る。
ドラムカンに少し水を加え、熱を加える。
下から熱し蒸気が出始めたら熱を取り除き、素早く密封。
中は蒸気が十万。
ドラム缶に冷たい水をあて冷やす。
冷たい水が一瞬で蒸気を液化し圧力を低下させる。
缶のきしむ音がする。
これは蒸気が液化する時に圧縮されて内部が減圧して缶の外側が空気圧で押されるから。
バーン!内部を減圧すると中に空気が入らないため、圧力が戻らず外の空気圧に負けて缶はつぶれた。
LNGタンカーでは液化装置を用いて瞬時に蒸気を水に戻す。
すると真空装置のような減圧された区域が生まれる。
そこで海水を摂氏50℃で沸騰させる。
ダーウィンの発見は偉大、おかげでLNGタンカーは膨大なエネルギーを節約できる。
そのエネルギーとはタンカーが運ぶ貴重な積み荷。
この船は巨大な自己推進型ガスボトルといえる。
並外れたテクノロジーを用いて危険な貨物を安全に超低温で輸送する優秀な船。

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